腐った林檎の実が堕ちた日に
腐った林檎の実が 堕ちた日に
ぼくはあの雪国を 飛びだしたんだ
いらだつこの胸を 押し殺し
ポケットのなかに しぼみかけた夢
初めて見た この都市には
背中ばかりの 疲れ切った
男たちが胡座かいて すわりこむ
ひとつひとつ駅を すぎてゆく度に
新しい世界が 拓けてゆくんだ
ネオンサインは鈍く輝き
アルコールがむやみに 吐き棄てられる
殺気だった眼を 持つ男たち
妙に媚びてしまった 女たち
男と女の間にはさまれ すわりこむ
男は手に手に 新聞を持ち
疼きはじめた腕を 鳴りしずめ
女は決まって ハンド・バッグをかかえ
髪の手入れを 忘れはしなかった
物足りないのは そぶりだけだ
とどまるところは 誰もが知ってるはず
さしさわりのないようにと すわりこむ
想い出したくもない あの夜は長い
ささやく占い師は 今日もはずれた
古いうたと 傷ついたからだに
刻まれてゆくぼくの 羅針盤
道はいくつにも 拡がって見えた
赤錆びてめくれあがった トタン屋根
かくれるところを見つけ出し すわりこむ